「一人ひとりの歩みを祝福したい」

社会の問題に目を向ける時に感じる絶望感や無力感は、マイノリティから生きるためのエネルギーを奪う。しかしそんな社会の中でもなお、「人間っていいものだな」と感じられる個人的な物語や出会いがあることは、人間社会の希望ではないだろうか。(中略)

私たちは皆が社会的存在であると共に個人の物語を生きている。(中略)理想や普遍や常識に比べれば、私たち一人ひとりは常に奇異なもの、足りないもの、理解し難い一回きりのものである。しかし私にとって心理臨床とは、まさにその一回性を理解し、肯定しようとすることである。(中略)「あるべき姿」から比べれば奇異なもの、足りないもの、理解し難いものとされている、一人ひとりの歩みを祝福したい。

「おわりに」より

 

目次

はじめに―本書の背景にある問題意識

部 私自身について―当事者、実践者、研究者として


  • 当事者、実践者、研究者であること
  • 社会が良くなれば、権利を獲得すれば、人は幸福に…なれる?
  • 実存的契機となった育ち直しの経験
  • 韓国での生活―当事者から実践者への架け橋
  • 日本社会に着地する契機―そして、研究者へ


部 本論

第1章 在日コリアンとメンタルヘルス

  • 植民地支配の歴史とメンタルヘルス―歴史的トラウマからの考察
  • 差別とメンタルヘルス―人種差別がメンタルヘルスにもたらす影響
  • 歴史的社会的背景が在日コリアンのメンタルヘルスに与える影響
  • 「私」の物語の重要性―複雑な日常の実態に光を当てる


第2章 在日コリアンに対する心理社会的支援のこれまで

  • 日本の精神医学分野と在日コリアン
  • 日本の心理学分野と在日コリアン
  • 日本の臨床心理学分野では在日コリアンはどのように「扱われてこなかったのか」
  • 在日コリアンコミュニティおよび近接領域と臨床心理学的問題との関係


第3章 在日コリアンのメンタルヘルスに関わる取り組み

 ―「免責」と「引責」のプロセスとそれを可能にする場の特徴

  • サポートグループ「それが一人のためだとしても」とは
  • 在日コリアンと当事者研究
  • 在日コリアン参加者の歴史―社会―個人が統合されていくプロセス
  • 在日コリアンのための心理社会的支援に必要な場の特性
  • 在日コリアンに対する心理社会的支援を「免責」と「引責」の観点から考察する


第4章 心理化されやすい日常の被差別体験を可視化する

―在日コリアン青年へのマイクロアグレッション実態調査より

  • マイクロアグレッション概念が在日コリアンの差別研究に持つ意味
  • マイクロアグレッションの三分類とマクロアグレッション
  • 調査方法
  • 調査結果
  • 考察


第5章 在日コリアンのための心理社会的支援の現場―ZACについて

  • ZACの構造
  • 相談の実際
  • 主訴(困りごと)に見られる特徴
  • ZACにおける臨床的な対応の流れとその特徴


第6章 「免責」と「引責」が交差する場としての心理臨床

  • 事例①ジェンダーとインターセクショナリティの視座から
  • 事例②男性性、民族差別、加害・被害の関係から
  • 考察:歴史ー社会ー個人のつながりの中で「主訴」を捉え返す


第7章 社会の中で心理社会的支援を位置づける

  • マジョリティ特権と心理社会的支援との関係
  • 心理社会的支援が社会において持つ意味―差別への日常的介入戦略を参照枠として


第8章 在日コリアンの心理社会的支援に求められるものとその可能性

  • 光と影のモデル―生態学的モデルへの補助線
  • 本書で得られた知見
  • 本書の意義と残された課題、他のマイノリティへの応用可能性


おわりに/謝辞/参考文献


著者紹介


朴希沙(Kisa Park)

公認心理師/臨床心理士


立命館大学大学院人間科学研究科後期博士課程修了。
在日コリアンカウンセリング&コミュニティセンター(ZAC)。

主著 『歴史的トラウマと日常を結ぶ心理臨床──在日コリアンに対する実態調査と臨床実践』(明石書店・2026)

デラルド・ウィン・スー『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション──人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』(共訳・明石書店・2020)

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在日コリアンカウンセリング&コミュニティセンター(ZAC)
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