歴史的トラウマと日常を結ぶ心理臨床
在日コリアンに対する実態調査と臨床実践
著:朴 希沙
(臨床心理士/公認心理師)
誰のものでもない、たった一度きりの自分の人生を生きるために
分断された「歴史・社会・個人」を統合する【むすぶ臨床】
在日コリアンへの差別や偏見が根強く残る日本社会において、トラウマや心理的葛藤を抱える当事者へのケアやそのための研究は置き去りにされてきた。
本書は、「個人の心の問題」とされてきた在日コリアンのメンタルヘルスを、歴史と社会構造の視点から捉え直す試みである。当事者でありカウンセラーでもある著者が、自らの人生と心理臨床の経験を基に「歴史・社会・個人」の3つを軸とするアプローチを提示。当事者が自らの人生を生き直すためのプロセスと、カウンセリングにおける社会的公正の実現を模索する。
推薦
「見過ごされてきた問題に名前をつけ、国家・戦争・歴史の視点から在日コリアンのメンタルヘルスを論じる。著者の骨太で壮大な試みに喝采を送りたい。これこそが心理支援だ。」
――信田さよ子
(公認心理師・臨床心理士)
書評・読者の声
読み始めると瞬く間に引き込まれて一気に最後まで読み終えた。「父は在日コリアン2世、母は日本人である」という著者が、在日コリアンに対する実態調査と臨床実践を行い見事な研究書にまとめた一冊だが、著者自身の葛藤もまざまざと描かれ、その息遣いまで聞こえてきそうなドキュメンタリーのような著作だ。
――安達もじり
(映画監督・演出家)
人の言葉に耳を傾けるとはどういうことなのか。排外主義がどれだけ多くの人の生活をゆがめているのか。マイノリティーが語るために社会はどう変わる必要があるのか。そして、〈私たち〉はどのように声を上げるべきなのか――。本書を手に取って、無数の根源的な問いにふれてほしい。
――山家悠平
(女性史研究家、小説家)
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この本が切り開くもの
1. 日本の心理臨床が見過ごしてきた「空白地帯」への応答
植民地支配という歴史的背景や現在も続く差別構造があるにもかかわらず、日本の精神医学や心理学において、在日コリアンのメンタルヘルスは長らく事実上の「空白地帯」となっていました。本書は、既存の枠組みの中で意図せず不可視化されてきたこの領域に真正面から光を当てます。
2. 歴史・社会・個人の統合――「むすぶ臨床」の視座
目の前のクライエントの痛みを適応不全などの「個人の問題」に閉じ込め(心理化)ず、次の3つの次元を結び統合的に取り扱うアプローチです。
- 【歴史】 植民地支配から世代を超えて受け継がれる「歴史的トラウマ」
- 【社会】 日常に潜む偏見や無自覚な差別などの現在進行形の構造的な抑圧
- 【個人】 歴史や社会のカテゴリーには回収しきれない、その人固有の「物語」
3. 構造的暴力の「免責」から、誰も代われない自分自身の人生を生きるための「引責」へ
歴史と社会の構造的暴力を可視化し不当に背負わされてきた自己責任(心理化された痛み)から当事者を解放(=免責)することによって、クライエントは重荷を下ろし「誰のものでもない自分自身の人生」を発見し、自らの意思で人生の責任主体として生きていく(=引責)ことにつながるプロセスの存在を描きます。
4. 心理化されやすい「日常の被差別体験(マイクロアグレッション)」の可視化
悪意なき無意識の偏見や、些細な日常のやり取りの中に潜む「無自覚な差別」。それがどのように当事者の心を削り、メンタルヘルスを深く蝕んでいるのか。在日コリアン青年への質的調査を通じ、従来の心理学では扱われてこなかった微細な抑圧の構造を実証的に提示します。
5. 支援者と被支援者の間の緊張関係を描く「光と影のモデル」
著者自身の交差的な視点と、在日コリアンカウンセリング&コミュニティセンター(ZAC)における臨床実践を紹介。「個人の内面」に留まらず、環境と個人の相互作用を重視するこの実践的知見は、在日コリアン支援の枠を超え、他のマイノリティ支援にも広く応用可能な生態学的モデルの補助線となります。
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